ファウルトラブルの功名、ケガの功名――中部大学第一
2022年11月25日
ゲームを進めるうえで、ケガによる突然のアクシデントはもちろん、ファウルトラブルもけっして喜ばれるものではありません。チームにとっては、それらが敗北に結びつくこともあるからです。
それがトーナメント形式の大会であれば、あるいはコーチも選手自身も――特にその選手が主力と呼ばれる選手であればあるほど、ゲームに出続けるという選択をするかもしれません。けっして褒められることではありませんが、少なくともかつてはそのような選択をするコーチや選手もいました。
「U18日清食品リーグ バスケットボール競技大会」はその名のとおり、リーグ戦です。敗れてもまたゲームがあります。トップリーグも終盤戦に差し掛かり、男子の初代王者になれるチームも絞られてきました。他のチームは今大会での優勝こそできないまでも、今後に向けたよりよいチーム作りを、目の前のゲームで勝負をしながら、おこなっています。
中部大学第一にとって、11月19日におこなわれた帝京長岡とのゲームはまさにそのような視点で進められました。
発端は正ポイントガードの下山瑛司選手のファウルトラブルです。第1クォーター開始約4分で2つ目のファウルを犯し、常田健コーチは下山選手をベンチに下げる決断をします。その狙いを常田コーチはこう明かしてくれました。
「トップリーグでの我々のひとつの課題が選手層を厚くすることだったんです。これまでであれば下山が2つ目のファウルを犯しても、3つ目をしないようにして戦うんだぞ、と伝えて、彼を出し続けていたはずです。しかしチームでの練習も一定のレベルまでは積めていますし、今(練習で)頑張っている選手たちも積極的に使っていこうというプランがあったので、下山を下げる決断をしました」
とはいえ、下山選手は下級生のころからゲームに出ている、文字どおりの中心選手です。第2クォーター、明らかにチームのオフェンスが停滞したときでも常田コーチは下山選手を出さず、下級生を含めた他の選手で乗り越えようとしていました。それは前記のとおり、選手層を厚くしたいためです。
これまでもトップリーグで1人、もしくは2人を交代させると自分たちのペースを失ってしまうことがあったそうです。それでもチームとしてオフェンスの落とし込みを練習してきたことを思えば、コーチとしてもそれを試さないわけにはいきません。
「今年のチームは起点になるのが下山と小澤飛悠のプレーになるので、そのラインが機能しなくなると、第2クォーターのような停滞感が出てきてしまいます。ただ、そこで中途半端なプレーをするくらいなら、オフェンスでもディフェンスでも、はっきりとしたプレーをしたほうがいいんです。うまくいかなければ、なぜダメだったのかが明確にわかりますから。メンタル的にも、悪い流れのなかで『誰かがやってくれるだろう』といったバスケットにならずに済みますから」
果たして常田コーチの狙いは的中していきます。今年度の中部大学第一は下山選手だけでなく、小田晟選手もボールハンドラーとしての役割を担うことができます。後半は戻ってきた下山選手とともに、彼が起点となって、得点をあげていきました。
また下山選手とともにチームの起点と言われる小澤選手が負傷退場をしたときも、坂本選手を4番ポジションに下げ、シューターの住吉大和選手を投入するなど、チームとしてのさまざまなパターンを試していました。その住吉選手はチームトップの18得点。
いったんはベンチに下がりながら、「試合に戻れます」と言ってきた小澤選手を、残りの時間すべてで休ませられたことも中部大学第一にとってはプラス材料と言えるでしょう。
負けても次があると言われるリーグ戦ですが、中部大学第一を含め、どのチームも負けていいとは思っていません。一方で、ただ勝てばいいというゲームにしたいわけでもありません。彼らはトップリーグを真剣に戦いながら、一方で12月23日から始まるウインターカップを最終目標に掲げています。
常田コーチもそれを認めたうえで、こう話します。
「(トーナメント形式の)ウインターカップでも突然のアクシデントは起こり得ます。そう考えると、私自身がさまざまな選手を起用する勇気を持たなければいけません。今日のゲームは、下山抜きの第2クォーターは大変でしたけど、小田がガードとしてよく頑張ってくれたなと思います」
ディフェンス面での課題は残りましたが、ファウルトラブルの功名、ケガの功名で、中部大学第一はチームとして、またひとつ貴重な経験を積むことができたのです。