小さいセンターでも勝負はできる――正智深谷#6樋口碧空
2022年11月25日
一般的にバスケットのセンターと言えば、“ビッグマン”と呼ばれる、身長の大きな選手が担うことが多くあります。一方で身長は「どれほど優秀なコーチでも指導できない」と言われるくらい、先天的な要素でもあります。
身長185センチは一般社会の感覚でいえば、けっして低くない身長です。文部科学省が発表した令和3年度の「学校保健統計調査」(速報値)でも、高校3年生男子の平均身長は170.8センチですから、むしろ高い部類に入ると言ってもいいでしょう。
しかし高校男子バスケットのセンターというポジションで、しかも全国トップクラスのチームになってくると、もはや小さい部類とみられてしまうも事実です。190センチ以上はもちろん、留学生を含めて200センチ越えの選手もいるのですから。
「U18日清食品リーグ バスケットボール競技大会」のトップリーグが終盤を迎えています。11月19日、それまで4戦全敗の正智深谷は東海大学付属諏訪と対戦し、44-75で敗れました。またひとつ黒星を増やしてしまったのです。
結果的には完敗となってしまいましたが、このゲームで気を吐いていた一人が正智深谷のセンター、185センチの樋口碧空選手です。東海大学付属諏訪には200センチを超すセンターこそいませんが、それでも樋口選手よりは大きい190センチ台の選手が複数名ゲームに出ています。樋口選手は彼らを相手に15得点、5リバウンドをあげているのです。
センターで5リバウンドは少ないのではないか――そう思われる方もいるかもしれません。実際に正智深谷のガードであるルーニー慧選手は12リバウンドを取り、フォワードの田中祥智選手も7リバウンドを取っています。これも一般論として、リバウンドを役割の一つとするセンターとしては、チームメイトに助けられている感じもします。
しかし、それこそが身長の小さいセンター、樋口選手の見せどころとも言えます。
「自分は小さいので、自分がリバウンドを取るというよりも、ボックスアウトをして相手のビッグマンに取らせず、周りにいるチームメイトにリバウンドを取ってもらうという意識でやっています」
身長が小さい分、空中にあるボールを奪い合う展開になったら分が悪いのは明らかです。ならば、相手にも取らせないように、ボールが落ちてくる地点に行かせないようなポジション争いで勝負をすればいい。相手のビッグマンを思い通りに動かせないよう、彼らの足元に入って、動きを止めることは小さい選手でもできることです。それを樋口選手は実践しているわけです。
リバウンドだけではありません。樋口選手はこの日、得点面でもルーニー選手に次ぐ15得点をあげています。むろん、一般的にセンターが主戦場とするゴール近辺でシュートを打とうと思えば、やはり身長で分の悪い樋口選手ですから相手に守られてしまうことも多くなるでしょう。ならば、相手の弱いとされるところを突けばいい。樋口選手はそう考えています。
「普通にペイントエリア内だけで勝負をしようと思えば、相手にブロックショットをされてしまいます。でも身長の大きい選手には足を細かく動かすことが苦手な選手が多いので、それを逆手にとって、自分はペイントエリア内を動き回って、最後はフリースローライン近辺からのドライブやジャンプシュートを打って、得点を取るようにしています」
身長の小さいセンターだからといって、身長の大きいセンターに敵わないわけではありません。相手の特徴を知り、そのうえで自分の良さを発揮すれば、十分に戦えるのです。
その思考はディフェンスでも発揮されます。もちろん相手に高さを生かされてしまうと、どうにもできないことはあります。しかしバスケットは1対1のスポーツではありません。チームでいかに相手を守るかが、勝敗を分けるポイントにもなります。
「正智深谷はディフェンスのチームです。ゴール近くからの素早いヘルプは脚力のある自分が一番できることだと思っています。オフェンスだけでなく、ディフェンスでも目立って、チームを助けられるようにしたいです」
東海大学付属諏訪戦は、そのチームディフェンスにも綻びが出てしまったと樋口選手は反省します。ゲームの流れが相手に傾いたときに、いかにチーム内でコミュニケーションを取って、ディフェンスを安定させるか。
全国トップクラスの中では身長が低いセンターの樋口選手。それでも正智深谷のセンターとして、チームの最後尾を守る彼のティーチングが、今後の勝敗を握るひとつのカギになるかもしれません。